『小さいおうち』(2014年)
第143回直木三十五賞受賞作、中島京子の同名小説が原作。監督・山田洋次。主演は松たか子。他に、倍賞千恵子、黒木華、片岡孝太郎、吉岡秀隆、妻夫木聡が出演。
ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品。
倍賞千恵子演じるタキ(青年期は黒木華)が、かつて女中として奉公していた「赤い屋根の小さいおうち」の中でのできごとと、そこで生まれた秘密の恋愛事件を自叙伝として綴った物語を中心に展開していく物語。昭和初期から、次第に戦争の状況が変化していく中での、東京に暮らす中流家庭の庶民の生活が描かれている。
60年以上前の昭和初期を舞台としており、戦争が激化するまでを描いているが、決してはるか遠く昔の物語のようには思えないものだった。昭和初期も満州侵略も、太平洋戦争も、この物語ではあくまでも時代背景でしかなく、その時代に生きている人々の生活に焦点を当て丁寧に描いているので、ある若い女中と奥様という二人の女性の物語としてみることができたからなのではないだろうか。
特にタキは、世界情勢や戦争はあまりリアリティを持って見聞きしているようには描かれていない。日々、平井家の家事をこなし、奥様の秘めた恋にドギマギしている毎日だ。
奥様だって、戦争が起きていても、夫の会社がその影響で傾いていても、どこか自分のこととして感じていないように描かれている。それは、戦争が起きていても、人には生活があるということを教えてくれているように思った。自分の身のまわり、家の中を守るので結局は精いっぱいなのだ。
そして、それは決して自分のこと以外、関心がなかったからどうこうという意味ではなく、そういう大切に守ってきた家族、密やかな恋愛、思い描いていた未来など、当たり前にあった生活が戦争によって、めちゃくちゃにされてしまった現実を思い知らせてくる。
戦争がそんな市井の人々のささやかな幸せを根こそぎ奪っていったという現実を。
どうしても戦争の映画を観ていて、出兵する家族や愛する人たちに向けて「バンザイ」ということに違和感を感じていました。戦死すれば、お国のため、と。当時の女性たちも本当にそうだったのだろうかと。
タキは出兵する板倉に「死んではいけない」という。それはきっと非国民と言われる言葉だけど、その言葉を聞いて、当時の人たちも今の女性と同じなんだと思いました。
タキや恭一が口にする「長く生きすぎた」という言葉は、亡くなってしまった多くの人たちへの思いや、その人たちが理不尽に奪われた普通の未来に自分が生きているということへの罪悪感のようなものだったのかと思うと、胸が苦しくなった。
何度も言うけど、この映画は戦争の映画じゃなくて、家族の物語や恋愛の物語だと思います。
タキという普通の女性の目線は様々な今に通じるものを教えてくれ、現代の健史の視線があることで時代との距離を感じずに観ることができたのではないかと。
と、結構重い話のように思えるけど、会話ややりとりには笑えるところもたくさんあって、うん、やっぱり本当に普通の生活が描かれているので、全体は全然気負わず観れる映画です。
前作の『東京家族』とキャストがほとんどかぶっていることも、個人的にはおもしろかったけど(笑)。かぶりすぎでしょ!あと、山田洋二監督の妻夫木君の使い方がいつも結構おもしろいな~と思う。実年齢より若い役を与えていて、なんか若者ポジションなんだよね。で、必ず一番の若者の立場から、いろんな世代をつなぐ役割を担わせているという。
ここからはワタクシゴトですが。
最後に妻夫木君演じる健史が彼女からプレゼントされた絵本「ちいさいおうち」。この絵本、私が建築学科に入学すると決まったとき、母親からプレゼントされた本なんだよね。探したら、ちゃんと今の家にも持ってきてたので、読み返してみました。私の最後(らしきもの)となった修士論文の考えの根本が、「ちいさいおうち」に通じるものがあって、なんだかホッとした。ちゃんと最初に描いていた「ちいさいおうち」を最後に作れていたんだな~と。
おうちを作ることはないけど、こういう形でつながっているのもありかもしれないなと、個人的には思うのでした。
ちなみに来週2/8の週刊映画時評ムービーウォッチメンは『小さいおうち』みたい!
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