2014年4月23日水曜日

そこのみにて光輝く(2014年)



そこのみにて光輝く

芥川賞候補に幾度も名を連ねながら受賞がかなわず、41歳で自ら命を絶った不遇の作家・佐藤泰志の唯一の長編小説を、綾野剛の主演で映画化。「オカンの嫁入り」の呉美保監督がメガホンをとり、愛を捨てた男と愛を諦めた女の出会いを描く。仕事を辞めブラブラと過ごしていた佐藤達夫は、粗暴だが人懐こい青年・大城拓児とパチンコ屋で知り合う。ついて来るよう案内された先には、取り残されたように存在する一軒のバラックで、寝たきりの父、その世話に追われる母、水商売で一家を支える千夏がいた。世間からさげすまれたその場所で、ひとり光輝く千夏に達夫はひかれていく。しかしそんな時、事件が起こり……。(以上、映画.com

貧困や介護問題、トラウマなどを扱っていて、決して「おもしろい!」と大声でわいわい騒ぐような映画ではないし、観ている最中はずっしりと胃のあたりにくるような重い映画だった。

ここで描かれる現実には、救いはないし、結末だって現実は何も変わってないし、誰も幸せではないけれど、辰夫と千夏の気持ちの変化だけがとにかく救いだった。
そして、その救いは、現実を何か変えていくだろうというような希望を含んだ描き方で描かれていて、すごくいいラストだと思った。
ポスターにもなってるけど、すごくきれいだしね。


役者がみんなよかったのも大きい。
池脇千鶴ってすごいわ。(最初、大島優子にやっぱ顔似てるな~って思ってみてたけど…)
全然違う!なんてゆーか、顔の表情もすごいし、セリフも、二の腕のぷにぷに感とか、全部含めて女優!という感じがした。
この人に場末の女やらせたら勝てる人いないよね。軽薄っぽくもできるし、奥深い影の部分もできるんだろうな。すごいわ。

綾野剛もよかった。いつもどこか綾野剛っぽさが気になって、“綾野剛”として観てしまうけど、達夫は達夫だった。
いい意味で綾野剛のだめっぽさとか、けだるい感じも生きてて。


重いし観ててつらいけど、観てよかった!と、思える映画でした。

本筋とは関係ないけど、北海道って方言ないと思ってたわ。

2014年4月21日月曜日

大人ドロップ(2014年)



大人ドロップ


高校3年生の4人の若者が、焦りや不安を抱きながらも子どもから大人へと変わろうとするひと夏を描いた青春映画。原作は樋口直哉の同名小説。若手実力派・池松壮亮が主演、ヒロイン役に「桐島、部活やめるってよ」「あまちゃん」の橋本愛。監督・脚本は「荒川アンダー ザ ブリッジ」の飯塚健。
高校3年生の浅井由は、夏休み直前、親友のハジメに頼まれ、彼が思いを寄せているクラスメイトの入江杏とのデートをセッティングしようとするが、そのことが原因で杏を怒らせてしまう。そのまま夏休みに入ってしまった上に、杏が学校をやめて引越してしまうと聞き、由は心にモヤモヤとしたものを抱えた日々を過ごす。一方、大人になるために何かと経験を急ぐ女友だちのハルからは、年上の彼氏との恋愛相談をもちかけられ、周囲が大人になろうとしていることに由は焦りを感じ始めるが……。(以上、映画.com


高3ならではの時間が、まさに描かれているという感じ。
要するにその当時ならではの“焦り”のようなものなんだけど。

仲良くっても、一緒にいても、気持ちはそれぞれの方向を向いていて、その方向も定まっていない時。
俯瞰した態度でひょうひょうといる由が、実は誰よりも現実を客観的に見れていなくて、周りのみんなが大人になっていくのを知って、密かに焦っているところ、それを表に出さないところがリアル。

由からすれば、大人に見える杏も「大人になりたい」と思っていて、
いつまでも子供だと、ちょっと上から見ていたハジメが実は現実を受け入れられている大人な面もあったり、
背伸びして大人ぶっているハルも、まだまだ子供だったり。


「大人ってなに?」っていう感じなんだけど、ただただ漠然と“大人”になりたかった頃。

今から見れば、「大人になりたい」って発想がそもそも“子供”なんだけど、
なりたかったはずの“大人”になんて、今もなれてないし、今でもまだ「大人ってなに?」という感じなんだけど。
(むしろ、今の方が「大人ってなに?」って感じかも。)



「大人になりたい」と焦っている高校生の中で、香椎由宇の役どころがすごくいい!

大人になればモヤモヤした気持ちも、悩みも、説明できない感情も、不器用な振る舞いもなくなると思ってるんだけど、
年齢的には大人なはずの香椎由宇が、悩んだり、泣いたりしているわけで。
香椎由宇もちょっと無邪気さのある大人という役どころで、君たちの言ってる「大人ってなに?」と言っているようで。
その辺りのさじ加減がすごくいいなと思った。

あと、“正義”や“正しさ”についての考え方も。

高校生の子たちがやたらと「それは正しいこと?」という言葉を発し、正しい、正しくないで物事を判断していく。
そして、いつも「なんで?」「どうして?」「よくわからない」と答えを求める。
そこがまあ、子供なんだよね。

正しい、正しくないで判断できることなんて、現実にはほとんどなくて、
答えなんてどこにもなくて、よくわからないことだらけだし、そこに折り合いをつけて、わからないものをわからないままにできることが大人なのかもしれないなと思った。

正しさや答えのない現実に対しての香椎由宇は、やっぱり大人なのかもしれない。



そういう立場の役どころとして、美波が演じる農家の嫁リリーさんも一応いたんだけど…
個人的には香椎由宇が素晴らしすぎて、あまりひっかからなかった。


全体的に若干説明しすぎな感じが気になったのと、ハルの演技が妙にうさんくさくてイラっとしてしまったのは否めないかな。
最後の一言がない方がよかったんじゃないかと…。みんな思うことだから、言わなくても大丈夫だよーって…。

でも、香椎由宇だけじゃなくて、池松君と橋本愛の演技はすごくよかった。
橋本愛の美少女感がまた復活してた!



ちょうど、最近高校時代のこと思い出したりしてたから、自分も今思えば、あの頃早く大人になりたいと思ってたわ。
ここから抜け出せば、この先の未来は何があるんだろうって、ちょっと先ばかりを見ていた。

俯瞰して、ふわふわとそこにいない感じでいたし、何も考えてなさそうな人に対して、上から見てたし。
まさに由だったなと。

でも、やっぱり今思い出すと…痛いよねw

2014年4月15日火曜日

グッバイ、レーニン!(2003年)


『グッバイ、レーニン!』

自国ドイツのアカデミー賞では9部門受賞、昨年の世界各地の映画祭でも話題を独占した感動コメディ。舞台は東ベルリン。アレックスの母親が心臓発作で昏睡状態に陥っている間にベルリンの壁が崩壊して社会が激変。母親は8カ月後に意識を取り戻すが、今度ショックを受けたら命が危ない。そこでアレックスは、母親になんとかベルリンの壁崩壊や社会の変化を隠そうと奮闘していく。音楽は「アメリ」のヤン・ティルセン。(以上、映画.com)


すっかり書くのを怠ってしまった…。書いてないだけで、相変わらず観てはいます。

さて、これはすごく好きな映画のひとつ。

その心臓発作の原因が自分ではないかという罪悪感もあって、ドイツの東西統一を隠す嘘をつき始めたアレックス。
周りの人を巻き込み、ただただお母さんにこれ以上ショックを与えたくないと、突き進む姿は少し滑稽だけど、めちゃめちゃ愛おしい。

誰かのための嘘、愛のある嘘とはこういうことを言うんだと思う。
アレックスの嘘は、お母さんのための嘘であり、それはやはりどこかで自分のためでもあったはず。だけど、それでもお母さんにとって東ドイツは存在し続けたし、嘘かもしれないけど、それは確かにあったと思わせる説得力がある。

お母さんは嘘だと分かっていたのかもしれない。それでも、よくてダメ息子のアレックスが自分のために行動をしたという事実が愛なんだと。
それが、お母さんのための東ドイツを作っていったんだと。

真実なんてどうでもいいような、それ以上のもっと大事なものを教えてくれる映画。


のらりくらりと反体制運動に参加していたアレックスが、お母さんのために動くことで彼自身がどんどん変わっていくのがいい。
時代が変わっていったとしても、人の生活は続いていくんだもんね。


すごくテンポがいいから、どんどん引き込まれていく!
コメディなんだね。最後は泣けます。